トランプタワーと借地権
ニューヨーク5番街にある「トランプタワー」をご存じでしょうか。 このプロジェクトの成功は、ドナルド・J・トランプ氏にとって非常に重要なものでした。なぜなら、建物の完成が全米で中継され、大きな注目を集めたからです。
現在はアメリカ合衆国大統領として世界的に知られるトランプ氏ですが、当時はまだニューヨークの不動産会社を継いだ若き経営者にすぎませんでした。
敷地にはもともと11階建てのビルがあり、トランプ氏は3年かけてそのビルを取得しました。しかし土地は借地で、29年後には返さなければならない契約でした。アメリカの借地権は更新がないためです。
そこでトランプ氏は地主にこう提案しました。 「土地を提供していただければ、こちらは借地権を提供します。対等なパートナーとして、住宅とオフィスを兼ね備えた素晴らしいビルを建てましょう。」
つまり、地主はこのままではわずかな地代しか得られませんが、借地権と底地権を合わせて共同所有にすれば、今すぐ大型ビルを建てて利益を分け合えるという提案でした。地主の心理を突いた見事な交渉だったのです。
さらに隣にはティファニー本店(1940年建築)がありました。建て替えないと予想したトランプ氏は、ティファニーから「空中権」を購入。これにより容積率を拡大し、58階建ての高層ビルを建てることが可能になりました。
トランプタワーは、
- 低層階:ショップ
- 中層階:オフィス
- 高層階:高級コンドミニアム
という構成で、当初はスティーブン・スピルバーグ監督、マイケル・ジャクソン、マイク・タイソンなどの著名人が住み、世界的な注目を集めました。
このときトランプ氏はまだ30代後半。まさか将来アメリカ大統領になるとは本人も思っていなかったでしょう。 しかし、もし土地が借地でなかったら、この成功はなかったかもしれません。借地権を理解し、地主との交渉に活かしたことこそが、トランプ氏の大きな成功のきっかけだったのです。

